さて、始まりました、目的別レーシングシミュレーターの検討ですが、まずはパーツ選びから進めていきます。1.目的別レーシングシミュレーターの検討(はじまり)で定義した目標設定を読み解き、コクピットを構成するパーツ選びに求められる条件を抜き出します。
- 手に届く価格
- エレクトロニクス機器も含め、すべてを国内で調達
- 省スペース
- ファンドライブ
FANATEC, MOZA, Simucube, THRUSTMASTER, CAMMUS, … 最近はメジャーな製品も多く手に入るようになりましたので、パーツそれぞれ、悩めばいくらでも悩めます。スペック優先、リアルさ優先、デザイン優先などで選ぶこともできますが、今回は目的別のセットアップに合わせたパーツ選びをしたいと思います。
それともうひとつ重要なこと、それは、容易に調達ができるシンプルな構成です。セットアップを容易にし配線もシンプルにする、そう考えて、エレクトロニクス関連はひとつのメーカーで揃えることにします。それでも選択肢は複数あるのですが、今回は、選択肢がわかりやすいFANATECを選択することにしました。FANATECは国内で容易に調達できるので今回の目的に応じた条件にも合致します。
〜 ホイールベース 〜
ホイールベースとは、ハンドルコントローラーにあたるパーツです。ハンドルを付ける先にあるパーツで、ハンドルの操作量をシミュレーションソフトに伝えることと、反対に、シミュレーションソフトからマシンの挙動に関する情報をハンドルに伝えます。例えば、カーブを曲がっている時の横Gの力、路面の凹凸の情報、車の振動、縁石などに乗った際の振動など、様々なリアルな情報を、ハンドルを通してドライバーに伝えます。この伝わる情報の力を、フォースフィードバックと言います。これがあることで、実車さながらの操作感になるわけです。
ホイールベースの仕組みには、歴史のあるベルトドライブ方式と、最近はもうこれ一択になってきたダイレクトドライブ方式があります。ベルトドライブ方式はモーターの力をベルトとプーリーやギヤなどを通じて主軸に伝える仕組みで、様々な構成方法により様々な特徴を持つホイールベースが発売されてきました。ダイレクトドライブは、主軸に直接モーターが据え付けられているタイプです。近年はモーターの性能向上とソフトウェアでの補正が優秀になってきているため、レーシングSIMの世界では大容量のモーターを使ったダイレクトドライブが使われるのが一般的になりました。
ホイールベースを選ぶ場合には、スペックの選択も必要です。フォースフィードバックのパワーをトルクで示した数値が共通で使われており、5Nm, 8Nm, 10Nm, 12Nm, 20Nm, 25Nm … と、数字で表現されています。これは実際に使ってみるのが一番なのですが、簡単にどのような感じか表現すると、フォーミュラカーをイメージすると8-20Nmもしくはそれ以上… フォーミュラーカーはグリップが強いのでパワーのあるものを使い設定を調整するとよりリアリティが出る感じ、ラリーやドリフトをイメージすると5-12Nm程度のものを使い、低い摩擦係数にあわせてステアの挙動を調整するとリアリティが出る感じです。
今回は、ファンドライブをターゲットにしているため、パワーは抑えめにし、5-10Nm程度のものを選択することにします。FANATECの製品の中から、CSL DD (8Nm) を選択しました。とても剛性が高く多くのeSportsで使われているものですが、金額的にも手に入れやすい優れものです。
最近はかなり高いスペックのホイールベースがありますが、8Nm のものでも実際に使ってみると、かなり迫力があります。フルパワーで設定すると、マシンと設定内容によってはちょっと怖さを感じることもあります。スピンした時にハンドルが強力な力で回ってしまうような動きになってしまうと、怪我をしてしまうこともあるので注意が必要です。
CC DD (8Nm)
〜 ペダル 〜
エレクトロニクス系では、ペダルはホイールベースの次に重要なパーツです。また、一番選択で悩むパーツかもしれません。3ペダルや2ペダル、オルガン式もあれば吊り下げ式のものまで選択肢が多くあります。
ペダルの選択では目的に合わせた選定が重要です。なぜなら、その仕組みに使われているセンシングの仕組みが多様であり、また、調整ができるものもあればできないものもあるからです。
ペダルのセンシングの仕組みは多様ですが、簡単にイメージを説明すると、ペダルの踏み込み量を磁気センサーで捉えているもの、それだけではなく、圧力センサーなどを使い実際にかかっている力の情報を直接捉えているもの、などがあります。実車の操作でも30分も乗ればブレーキの感覚に慣れるという経験があると思いますが、この実車のブレーキ、実際には車の振動まで足に伝えていたりしますので、運転において非常に重要な情報源です。レーシングシミュレーターにおいても、実車同様の操作をするために、ペダルはとても重要です。
そこで、今回の選択ですが、目的を達成するための条件であるファンドライブを一番に考え、できるだけ実車のイメージに近いものにしたいと思います。圧力を正確に感知し、かつ、カスタマイズの幅を持ったペダル、ClubSport Pedals V3 を選択しました。3ペダルで、アクセル、ブレーキ、クラッチ、それぞれを個別に調整可能です。
ClubSport Pedals V3
〜 シフター と ハンドブレーキ 〜
マニュアルシフトを可能にするのであれば、シフターも必要です。オートマチックシフトにする場合は、ハンドルのパドルシフトだけを使うという方法もあります。ラリーやドリフトをイメージすると、シーケンシャルシフトとハンドブレーキが欲しいところです。
FANATECのシフターやハンドブレーキは選択肢が少ないのですが、様々なシミュレーターのセットアップで使われているのを目にします。パーツ選びで他社のものも視野に入れるのであれば、Thrustmaster の SPARCO シーケンシャルシフター あたりがデザイン的にも好きなのですが、今回はFANATECで揃えます。FANATEC製品で揃えると、すべてのケーブルをハンドルコントローラーにまとめることができますので、そこからPCまでは1本のUSBケーブルだけで接続できます。
FANATEC シフター ClubSport Shifter SQ V1.5 (シーケンシャル、H型シフト切り替え)
FANATEC ハンドブレーキ ClubSport Handbreake V1.5
〜 ハンドル 〜
ハンドル(ステアリングホイール)は、本当に多くの種類のものが発売されています。一般車のような丸型のものもあれば、フォーミュラーカーのようなスクエア型のものもあります。クイックリリースで変更できるので、これは好きなものを選ぶのが良いと思います。
今回の目的に合わせてひとつ選ぶとすると、ファンドライブという条件から、ハンドルは丸い形をしたもので、パドルシフトが可能なものが良いと判断しました。そこで今回の選択では、ClubSport LENKRAD BMW GT2 V2 を選択します。このモデル、剛性も高くパドルシフトの剛性も高く、とても良いフィーリングで、ストレスフリーで楽しめます。
ClubSport LENKRAD BMW GT2 V2
〜 コクピット と シート 〜
コクピットとシートは、様々なものが発売されていますので、予算をかけられるのであれば、それこそ無限に選択肢が広がります。簡易的な折りたたみ可能なフレームでできたコクピットから、強靭なアルミフレームでできたコクピット、簡単には入手できませんが、フォーミュラーカーをそのまま持ってきて油圧モーションコントロールフレームの上にセットアップすることだってできるのです。
ちなみに、汎用的なコクピットにターゲットを絞ると、次のように、様々な種類があります。
- ハンドルとペダルだけセットアップするシートレスのもの
- 折りたたみ可能な少し簡易的なシート付きのコクピット
- 軽量なパイプフレームによるシート付きのコクピット
- 強靭なアルミフレームによる重量物も付けられるシート付きのコクピット
- モーションコントロール基盤に載せた前後横Gやスライドを表現できるコクピット
コクピットは用途に合わせて個別に検討すべきものですので、どのタイプが良いという決まりはありません。ただ、同じタイプでも、できるだけ強度が高いものをお勧めします。なぜなら、ダイレクトドライブホイールベースのパワーと、足でのペダル操作を受け止めるパーツですので、剛性は後々の満足感につながります。あとは、実際の配置場所に合わせて考えるのも重要ですね。
そこで、今回使用するコクピットですが、別のプロジェクトで使用していたフレームが余っていたので、それを再利用します。となると、完全なパーツ選びになっていないのですが、ひとつの選択肢にはなるかと思いますので、使用するフレームを紹介します。
Next Level Racing – GTELITE RACING SIMULATOR COCKPIT
このコクピットのフレームは、強靭なアルミフレームです。重量は結構ありますが、モニターをマウントすることもできるので、シングルモニターであれば、省スペースを実現できます。
ちなみに、Next Level Racing のコクピットの種類は豊富で剛性の高いものが揃っています。他には、SPARCO のコクピットや、RECAROのシートを組み込んだものなど、デザイン性に優れたものが沢山ありますので、今回は、答えをひとつに絞らず進めていきたいと思います。
〜 パーツ費用 〜
さて、今回選択したパーツは、目標のひとつである、手に届く価格(20万〜30万程度)を満たしているでしょうか。定価で検証してみたいと思います。
本日執筆時点のエレクトロニクス関連の定価または販売価格は次のとおりです。
- ホイールベース:定価 65,500円(販売価格 30,000円-58,900円)
- ペダル:定価 46,900円
- シフター:定価 28,900円
- ハンドブレーキ:定価 16,900円
- ハンドル:定価 38,500円
エレクトロニクス合計:販売価格 161,200円(税込)
コクピットのフレームとシートの販売価格は、おおよそ、90,000円程度〜18万円程度(税込)
合計すると、税抜き価格で、23万円から31万円程度
今回のパーツ選びでは、想定していた目標に届いたと言える結果になりました。実際、パーツ選びでは十分な性能を持ったパーツを選択できています。
エレクトロニクスの価格が下がってきたこと、そして、パーツの選択肢が広がってきていることから、今回の目標設定において、十分高性能なシミュレーターを構築することが可能です。
目次
- 目的別レーシングシミュレーターの検討(はじまり)
- 目的別レーシングシミュレーターの検討(パーツ選び)
- 目的別レーシングシミュレーターの検討(セットアップ)
- 目的別レーシングシミュレーターの検討(チューニング)
- 目的別レーシングシミュレーターの検討(評価と考察)